NEWS加藤シゲアキ<直木賞ノミネート一問一答> 「もしかしたら自分が一番この作品を信じていなかったのかも」

直木賞候補にノミネートされ会見をする加藤シゲアキ

NEWSの加藤シゲアキが執筆した長編小説「なれのはて」が第170回直木賞(日本文学振興会主催)の候補作に選出された。前作「オルタネート」(20年)に続いてのノミネート。

以下は選出を受けての一問一答。

――候補入りしての心境を教えてください。

「2作連続で候補にしていただけるのは、本当に大変光栄な事。周りの方、家族や編集の方、皆さん喜んでくれたのでさすが直木賞だなと、直木賞の力を改めて感じました」

――そのように候補入りを知らされましたか。

「来週の東京ドームのライブのリハーサル中にマネジャーに呼ばれまして電話を代わったら、“直木賞の候補になりました”と言われました」

――メンバーの反応は?

「事前に知っても今日のタイミングまで言わないでくれと言われているんですけど、僕が急に抜けたもんですから、“なんかあった?”と(言われた)。勘が良いので、小山慶一郎という男は。“なんか選ばれた?”と聞かれたんですよ。なので、もう犯人見つかったみたいな感じになって、“すみません、実は直木賞候補になりました”と内々だけ伝えさせてもらった。凄く喜んでくれましたね、スタッフもメンバーも。それで今日まで内緒にしておいてねということですね」

――発表までは喜べないもの?

「そうですね。2度目という事もありますし、浮かれないようにはしたいなと思ってます。でも周りの方が“本当に良かったね”と喜んでくれるので、そういった意味ではほっとしたと言ったら変ですけど、もう一度候補に選んで頂けてうれしかったなと思いましたね」

――今作は加藤さんのお母さまの故郷・秋田が舞台。お母さまや、おばあさまからの言葉は?

「この件に関してはおめでとうという事でしたね。前回も凄く喜んでくれたんですけど、2回連続でノミネートというのは凄い事だと言ってくれた。祖母とはまだ直接は話せてないですけど、小説を読んだ感想は、90(歳)になる祖母ですけど、3日で読んだと。面白かったと言ってもらえたので、祖母からの太鼓判はもらえた。身内だからこそ余計に戦争の話を聞くのは少し心苦しかったんですけど。実はこういう本書いたんだと(言って)、後取材で8月に会った。その際に、もし良かったらそのときの話を聞かせてくれないかという事で祖母から話を聞きました。実際に土崎空襲を体験していて、祖母は10歳だったかで3歳か3カ月かの妹をおぶってあぜ道に出たと。そして空襲を遠くで起きているのを見たという話だとか、戦後の話も聞きました。やっぱりこういう事を書いて伝えていく事は大事だし、祖母から実際に戦争体験を聞けただけでもこの作品を書いた意味があったと思った。自分が書いた作品ですけど、多くの人の協力や助けがあって成り立った作品。このタイミングで改めて祖母含め関わってくださった皆さんに本当に感謝しています」

――莫大な取材量が必要だったと思うが、大変だった?

「前作で青春小説で直木賞候補にしていただきまして、吉川英治文学新人賞も頂き、凄く話題にして頂いた。一方でいろんな意見も頂きまして、次書くものは自分で一読者として30代半ばの本が好きな男として自分が読んでより楽しめる物、そして自分が書きたいもの、加えて自分が書かなくてはいけないものがあるんじゃないかと凄く思いました。次作は若い読者に向けるというよりは、僕個人に向けて書いてみようと意識を持って作品に取りかかったところがあります。そういった点では祖母に話を聞いたり自分のルーツをたどるという形で土崎空襲を知ったのは、大きなきっかけでした。実質構想から3年かかりましたし、大変だっていう事もたくさんありました。でも今振り返ってみればあっという間だったというか、『なれのはて』の発売発表時のコメントでも言ったが“見えない何か”に書かされているような感覚は凄くあり増したね。自分でも良くやったなとは思うんですけど、自信作でもあります」

――発売前から重版。売り上げも好調ですが。

「率直に凄くうれしいです。前作の青春小説のほうがもしかしたら手に取りやすいんじゃないかなと思っていた。今回は戦争を扱っており、辛いシーンもたくさん書いてますし、重く受け止められてしまう分、読者の方も手が伸びないという事もあるかなと思っていました。実際発表してみると多くの書店員さん、読者の方の口コミで凄く話題にしてくださってこの重版につながった。もしかしたら自分が一番この作品を信じていなかったのかもしれないですけど、それでも胸を張って自信作といえるものを書いたので、正しく伝わっているんだとしたらうれしいなとホッとしています」

――小学生のときは国語の授業が苦手だったと。当時の自分は今の状況をどう感じると思う?

「信じられない事だと思います。ずっと国語が苦手でしたし、本は好きでしたけど僕より本を読んでいる人もたくさんいました。そもそもタレントやりながら自分が本をいつか書くとも思ってなかった。作家生活は今年でデビューして11年なんですけど、11年前の自分もまさか自分が直木賞候補になるなんてと思っていなかったので、信じられないことが続いているし、想像もしていなかった人生だなと思います」

――若い子へのメッセージをお願いします。

「僕は本は大好きですし、本屋さんも大好きですけど、誰しも必ず本を読まなくてはいけないとも思っていない。僕にとっては本がある生活はとても幸せですけど、本が無くても幸せな人はたくさんいると思うし、それはそれで自分の人生が幸せで充実している事は最も大事だと思う。ただ、本でしか救われない事とか、本だから癒やされる事とか、本だから出来る事がたくさんあるもしまだ本を読んだ事ない人や、苦手だと思っている方がいるとしたら、そういう方にこそ『なれのはて』を読んで欲しい」

――小説を書く事によって自信を持てた事などはありますか。

「ずっと不安です。書いている時間も刊行してからも不安でした。だけどこうやって直木賞候補にして頂いたり、多くの方が会見に来てくださったり、書店員や読者の方の応援の言葉を受けると、やってきて良かったなと本当に思います。書いている時間はほとんど孤独ですし、自分が書かないと誰も書いてくれないので苦しい事の方が絶対多い。でも本という形になる事で、僕自身は結果的に救われてきたと思います」

――戦争について扱っている。いろんなニュースと作品の通じている点は。

「戦争というテーマを扱おうと思った時点で自分の中に危機意識はあったと思います。戦争というものにいつか向き合わなくてはいけないという意識はずっと30歳を超えてなんとなくあった。同世代の作家でも戦争を扱う方が増えてきた。おそらく全体的な危機意識の共有みたいなものはずっとあったんだと思います。そうした事を扱う事で、戦争というものがどうして起きるのかを自分自身が知りたかったし、なぜ起きるのか、なぜ繰り返されるのかという、人間の問題の部分は自分自身も知りたかった。土崎空襲を知った以上は書かなくてはいけないという意識に凄くなりましたね。僕自身生まれが広島なんですけど、そういった事もあって広島の戦争に関わるお仕事を時々いただきます。その都度、語り手の方がどんどんいなくなっているという問題がある。これからは経験していない物が語り継いでいかないといけないという事は、凄く実感していたんですよね。広島でも戦争の事を書いて欲しいという事はずっと言われていた。ここに来て書いても良いんだと思えるタイミングが訪れたという事もありますし、書きながら戦争が起きたことは戸惑いましたが、だからこそ書かないといけないという意識も働いたかなと思います」

直木賞候補にノミネートされた「なれのはて」を手に笑顔を見せる加藤シゲアキ

――アイドル業との両立は大変ではない?

「これがね、もう良く分からなくなってきて、書き始めてから12年なので両立している事が普通になってきてしまった。締め切りとかには追われるんですけど、仕事をセーブする事はありませんし、できうる限りはどっちも続けていけたらと思っています」

――今作に込めた表現者としての思い覚悟は?

「今までこう言った作品は書けなかったと思う。それは書いてきた経験がなければ向き合えない問題、史実だったし、書き続けてきたからこそ、これを書かなくちゃいけないという意識が働いた。史実や戦争、ジャーナリズムの点にも触れてますし、そういった部分に自分が向き合う事は凄く怖かった。でもやらなきゃいけないという意識が凄くあったのは、『オルタネート』を話題にしていただいたから。自分で書くと決めた作品ですけど、いろんな方の言葉や後押しがあってできた作品だと思ってます」

――改めてメンバーからどのように祝福されたかを詳しく教えてください。

「おめでとうっていうだけです(笑い)。それでありがとうって」

――ドーム公演への力にもなりそう?

「8月からアリーナツアーがあって、今度内容は違うけどドームがある。アリーナツアー中に『なれのはて』の『小説現代』への掲載や刊行があった。ツアー中に読める状態だったんですけど、公演数を重ねるごとにファンの中に『小説現代』を持っている人や『なれのはて』を僕に振ってくる人がいて、うちわ(に書いたメッセージに)で“なれのはておもしろかったです”と言ってくる人もいて、届いているなって(実感した)。ファンの人もどちらも応援してくれているので熱量みたいなものもありがたく感じました」

――直木賞候補おめでとうのうちわもあるかもしれませんね。

「あるかもしれないですね」

――直木賞候補入りがNEWSにとっても大きな武器になる感覚はある?

「結果的にはそうなると良いなとは思ってますけど、作家の時は作家として誠実に向き合う。新人賞を取って文芸界にデビューしたわけじゃないのでそういう意味では、芸能活動していた分横入りしていた感覚があった。でもオルタネートで話題にしていただいて、そのときも温かく迎えてくださった。タレントで作家をやっている後ろめたさがそれまではあったんですけど、実際は多くの作家の先輩方が優しく歓迎してくれて、自分が思っていたより皆さん本当に優しいんだなと。自分の価値を自分で決めてたなと反省したこともありました。まずは一作家として、とにかく執筆業に誠実に向き合うという、ここだけはサボろうとしないという感覚はありました。NEWSでも歌やダンスを抜かないというのは同じ感覚。そのお仕事に対して誠実に一生懸命やるという感覚は、結果共通はしていますけど、それぞれでちゃんと頑張るという感覚ですね。そしたら結果的に盛り上がってくださるというか、ファンの方が応援してくださるという事になってきた。今までもそうやってきたのでこれからもそうやっていくのかなと思います」

――伊集院静さんが亡くなられましたが、伊集院さんへの思いをお聞かせいただけますか。

「伊集院先生は僕が初めて会った作家の先輩。まだ作品が2作くらいしかないときにたまたまお会いした。凄く応援してくださり、優しい言葉もかけてくださった。吉川英治文学新人賞で(受賞したときに)再びお会いする事が出来て、そのときも“こういうときは素直に喜べと”いうお言葉をいただいた。直木賞の候補になった時に伊集院先生は作品を推してくださったんですけど、選評で“この作品を受賞できなかったのは私の力不足だ”という言葉を言わせてしまった事が凄く心残り。僕の作品の力不足なので、そういう風に言わせてしまった事が凄く悔しかった。もし次作品を出すとき、そしていつか直木賞候補になれたら伊集院先生の言葉を、優しい言葉でも厳しい言葉でも良いので改めて聞きたいと思っていた。『なれのはて』も送ってはいたんですけど、きっと読める状態では無かっただろうと。僕自身はこの作品に全力で向き合ってきましたが、もう少し早く書けていれば読んでいただけたんだろうなと率直に今は間に合わなかった事が悔しい。伊集院さんの感想をもう聞けないのは心残りですね。ただゆっくり休んで欲しいなと思っています」

――墓前に吉報を届けられると良いですね。

「そうなるといいなと思ってます。見てくれてるんだろうなと思います」

 

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